天神橋商店街を天満の駅から少し下ったところにある菊水は、大阪のお好み焼き屋さんの中でも指折りの超有名店です。小さなお店で営業時間も短いため、地元に住んでいても、なかなか食べる機会がありません。そもそも、お好み焼き一枚に千円払いたくない人や、お好み焼き一枚に三十分並ぶのが嫌な人には、このお店は向きません。

　もともとは、このお店は、名物オヤジの店として知られていました。亡くなった後は、おばさんがお姉さん達を率いて菊水流を継いでいます。待っている間にお客さんが感想を書くノートや、テコ坊のキャラクタ等に「女性の店」な雰囲気が感じられるようになりました。けれども、いちばん肝心な点は、昔のままです。それは、できあがるまでは、目の前のお好み焼きに、お客は決して手を出してはいけないということです。また、せっかちな人が焼き上がる前に食べはじめないように、テーブルの端に黄色い札がさりげなく置かれます。この札がなくなったら、できあがりです。

　甘口のソースにカツオブシの粉が加わり、やわらかく焼き上がったお好み焼きによく合います。テコで切り分けてふうふう言いながら食べると、とても満足な気分になります。

　ここは、お腹がすいたから行く、という店ではありません。また、おいしいお好み焼きを確実に食べたいというだけなら、鶴橋風月に行けばよいかも知れません。菊水に行くのは、いわば道楽です。ときどき気合いを入れて店の前に並びます。帰りには、それに見合った満足感を得ることができます。