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「パパっ！どこ行くねん。」
「どこて、ケーブルの乗り替えは、こっちやで。」 「乗り替えてどこ行くねんな。」 「え、生駒の遊園地とちゃうんか。」 「何ねぼけてんねん。さ、こっち来て坂のぼり。聖天さんまで歩くで。」 「聖天さんて、あの象さんみたいな神さんかいな。ママ、愛染さんから聖天さんに宗旨変えか。」 「違うがな。このお寺には愛染さんもいたはるんや。」 「なるほど。それにしても、ぎょうさんな寄進が石に彫ったるで。ふつうの寺やったら金拾万円とか書いたるのに、さっきから見てると一千万とかザラにあるで。」 「そらそうや。大阪じゅうの商売人がここの聖天さんに願かけに来やはるんや。」 「ひゃー一億円っちゅうのもあるがな。」 「どっちみちパパには関係ない金額やろ。さ、まず聖天さんにご挨拶し。」 「またこらまったく、えらい線香の煙や。聖天さんは煙が好きなんか。」 「煙よりも油や。ここのお寺では何百年か前から、一夜も欠かさず、草木も眠る丑三つ時に、聖天さんに油をかけて供養法を修するんやて。」 「動物園の象さんにホースで水かけてブラシでごしごしするのとおんなじか。」 「あほ！このバチ当たり。役の坊さんに万一のことがあって途絶えたりすることのないように、控えの坊さんもいる位、大切な秘法なんやで。」 「いたた...それにしても、人もようけおるし、お堂もようけあるし、えらいにぎやかなこっちゃ。」 「きょろきょろしてんと、さ、こっち登るで。」 「うわっ、また石段かいな。」 「怠けたこと言うてると、また太るで。しゃきっと歩かな。愛染さんはこの上の塔にいたはるんや。」 「よいしょっと。おや扉があいてるがな。かわいらしい愛染さんや。」 「多宝塔も新しくてきれいやな。」 「ママもきれいでしゅ。」 「多宝塔とウチといっしょにしてどないすんねん。しょうもないこと言うてると、石段から突き落とすで。」 |