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「ママ、歩き疲れたがな。隅っこにぼろっちい塔があるから、軒先でタバコでも一服どうや。」
「こらっ、何すんねんな。これは恐れ多くも国宝の多宝塔やで。火気厳禁。燃やしたりしたら、あんたの生命保険では百回死んでも払われへんような大損害や。」 「えらいたいそうなもんなんやな。ここに愛染さん隠れてはるんか。」 「ちゃうちゃう。塔の本尊は、金剛界の五智如来さんや。」 「その、ごちゃごちゃ如来て、何や。」 「またアホ言うとる。大日さんと、四方の四つの智恵の仏さんや。」 「五人部屋かいな。今どき苦学生でもそんなとこ住まんで。」 「あいかわらずバチあたりな奴や。はよ御宝印授かりに行こ。」 「うわ、こっちは柔道部の合宿か。」 「そんなわけないやろ。」 「ほれ、坊主頭の若いのが、わあわあ騒いどるで。」 「院主さんの留守に羽目はずしてはるんやな。近所の寺からも遊びに来てるんとちゃうか。」 「ここは愛染さんは、堂の外から拝むだけか。」 「そや。ほれ、聞いてみ。本堂の方から御詠歌みたいなんが聞こえてくるで。」 「ありがたや、ありがたや。」 「ええかげんなこと言わんと、ちゃんと拝んで行くんやで。」 |