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地獄絵解
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| 熊野観心十界曼陀羅（岡山武久家蔵） |
- そもそも往生極楽の 雲の台に法の花 上品蓮に浮かぶ事 此世の此身このままに とりもなおさず成仏す 去此不遠とは説かれたり
- かばかり近き極楽も 作りし罪が鬼となり 心の剣身を責むる 一百三十六地獄 無間叫喚阿鼻永沈
- 此世の色は徒花の 情の涙流れても 焦熱の火は消へやらず 連理の衾暖かに 比翼の床を重ねても 紅蓮の氷は解け難し
- そもや人間一人は 三世の諸仏苦しみて 作り立てんとし給ふを 十月に足らで堕し子の 諸仏一度に御声を上げ 嘆かせ給ふ御涙 流れて瀧つ血の地獄 火焔となつて身を焦がす
- さて其次は小夜衣 我妻ならぬ邪淫戒 嫉妬の煙妬みの焔 僧を落とせし女の罰 比丘尼を犯せし男の罰 無明の馬の毛を振るひ 愚鈍の牛が角を振り立 六道四生をくるりくるりと因果は此に 廻りくるまの我からと 甲斐も涙に伏沈む
- 是はまた不産女の地獄 竹の林に衰へて 影もよろよろたよたよと 辿りよンろばふ哀れさや 千筋の燈芯手繰りもて 心の闇に呉竹の 竹の根を掘る篠竹の 杖に縋りて泣くばかり
- 暗しやつらし冥闇城 そも此苦患と申すは 娑婆にて人の目をくらまし 科なき人を牢に入 又関の戸の関守よ 往来を悩ます其の報ひ 四方は石の閂に 五体を責められ 五色の鬼が夜に三度日に三度 時こそ来れと呵責をなす 土は精剣山は鉄杖 五百生々尽きせぬ因果 弓取とても留まらず 力有とて頼れず 疑ひ給ふな人々
（近松門左衛門『主馬判官盛久』「びくに地ごくのゑとき」）
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