桜井谷村郷土志(抄)

安田俊治「桜井谷村郷土志」からの抜粋（1991/5豊中市立教育研究所発行「郷土史資料桜井谷村郷土志」による）

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位置
　我か桜井谷村は摂津浪花の北三里大阪府豊能郡の南部千里山々彙の西端部に存在せる一郷土なり四周の隣村を先つ東北より列記すれは、初めは仮名手本忠臣蔵に於て名高き萱野勘平（本名三平）の出生地なる萱野村にして、其西は飛瀑と紅葉弁才天（日本四弁天ノ一）を以て著名なる箕面村なり、西北に廻れは昔豊島の庄を以て由緒多き北豊島村なり。扨西南部に渉りては旧幕時代青木甲斐守（壱万石）の本陣ありし為名高き麻田村あり、南部は岡町の小都会にて、其名知らるゝ豊中村なり。東南部は物産筍にて名高き熊野田村、東は千里山三蓋の峰、東附近に於て三島郡新田村領に接す。
　隣村（大字）旧幕時代。稲村＝一橋様ノ御領知。牧落＝青木孫太郎様御知行所。半町＝安部摂津守御領分。瀬川＝一橋様御領知。玉阪、野村、石橋、麻田＝青木源五郎様御領分。新免＝保科弾正忠様御領分。熊野田＝蒔田○篤之助様御知行所。上新田＝稲葉長門守様御領分。
（略）

区画

大字	垣内別
野畑	東垣内　南垣内　中垣内　北垣内
少路	本郷　向所
内田	晩阪　下ン所　上ン所
	地勢上ニヨリ以上ヲ上村トイフ場合多シ
柴原	東垣内　西垣内　中垣内　奥ン所
南刀根山	東町　大町筋　西ン所
北刀根山	下垣内　上垣内（南垣内・北垣内）
	同上下村トイフ場合多シ

桜井谷村各大字小字名表

野畑	上川原　是山　下小来瀬　上小来瀬　蝉山　胴田　清谷口　池ノ明神　下ヶ平　池之内　川向イ　南垣内　鎮守ヶ本　北ノ垣内　ホキ谷　中ノ垣内　照月　宮山　宮裏　万代　下地蔵ヶ岡　権田　上地蔵ヶ岡　下太古塚　嘴塚　笹谷　栗林　大将軍　上太古塚　撫揚　上畑　池ノ内　上向ヒ池ノ内　樫原　下向イ池ノ内　堤山　正谷　千里山　釘貫　上ヶ平　畠ノ前　竹ノ鼻　金来瀬　久保ノ垣内　神鞍　野田尾　梨谷　万代池ノ下　西山　城ノ内　川向ヒ池ノ内　池ノ明神　石古良　清谷
少路	南本郷　東本郷　本郷　上野　牛廻シ　村町谷　東大道　山之越　五ノ坪　中畠　惣田　水無川原　西大道　道祖神　西ノ口　上垣内　中道　亥ノ子田　菖蒲田　羽鷹　三郎四郎　大村谷　東山　六ヶ谷　鳩ヶ谷　元竹谷　南羽鷹　谷新林　浦ヶ山　孫九郎谷　尊浄塚　傳児　羽鷹谷　北大花　権蔵　貝徳　大惣　兎原　北大道　一ッ松　鐘鋳場
内田	東垣内　皆川原　今久保　梅ノ木原　滝ヶ本　高岸　豊洲　辻ヶ内　乳母ヶ谷　上竹谷　下竹谷　山ノ谷　大僧　兎原　池ノ上　東野　南野　上南野　長山　東金寺　西金寺　東豊洲　下豊洲　八田　才ノ上　トンドバ　土井垣内　橋西　道場垣内　赤阪尻　赤阪　中池ノ沢　上豊洲　上山ノ谷　上垣内　川原山
柴原	天神前　前川原　向川原　安場　生ヵ塚　西北ノ岡　西雨ヶ森　掛越　二尾谷　門ノヶ　東出口　西谷　乳母ヶ谷　西山　見徳山　中北ノ岡　片阪　阪ノ下　土井　桃木谷　榎ノ元　尾崎　上川原　高野谷
南刀根山	ベソ田　長塚道ノ下　横長　大ノ目　岡ノ前　上川原　西大田　深谷　東大田　東門口　竹岡東原　長阪山　四ッ辻　土井ヶ谷　北垣内　南垣内　茶屋ノ前　西射場　山ノ谷　石ヶ本　田代川原　岡ノ前　下川原　下ノ坊　杣山　七々段　宮中　南金寺
北刀根山	下坊　二尾谷　北谷　道ノ上　上ノ台　西谷　池ノ下　塚田　山添　東谷田　宮中　中池道ノ下　北谷溝　西谷田　北垣内　尻谷　中池道ノ上　七々段

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山
　本村は南を除く外山を以て囲繞せられ、恰も箕の如し、其内著名の山を挙くれは、西に玉阪山待兼山あり、北に権田撫揚宮山あり、東には三蓋の峰其他通名傘松（数年前まで頂上に此形をなせる大木ありしによる）番小屋（領主の番小屋ありしによる）などとす。以上の諸山を一括し此山彙を更に千里山と称へ一名寝山とも謂ふなり。然れとも千里山の全範囲といへは甚広大にして、東は三島郡春日村辺までに波及し、其幅三里に及べり。（古来俗説に伝ふ。此全範囲千里山には九十九谷あり、今一ッを欠て百に足らす、足りなは虎臥す野辺となるならんと。
（略）
（略）
川
　本村の中央窪峡部を東北より西南に縫ふて○○と流るゝ一道の川あり、之を千里川といふ。幅四五間、此源泉は遠く萱野村大字白島の山中より発し、同村及び本村内諸溝洫の水を合して淙るの水となり、流れて豊中村と本村との境界線を作りつ麻田村大字箕輪走井等の村落を過ぎ、兵庫県川辺郡園田村の内椎堂附近に於て猪名川に合す。此川大字野畑字釘貫以南大阪府管内は河川法により工費の拾分の四は地方税の補助を受くる事を得るなり。（古記に仙路川、仙里川ト書セルモアリ）
待兼川
　摂津名所図会等に出つ。曰く、玉阪村の東にありて昔男女穴隙恋愛の極爰に入水せりと。此川今何れを指せるにや知るに由なく、又地理上かゝる大水を湛ふ水源もなし。惟ふに此辺池多けれは即其所へ身を沈めしものをいふにやあらん。（女が男を待つ宵の更くるを恨み「待ちくれて現に見えし面影の夢もつれなき山風の音」）
（略）
三蓋の峰
　東山にあり、本村中の最高峰にして、眺望頗る絶佳なり。今其頂上より地理歴史上著名なるものを望見すれば、先つ北方には城州に於て瓦抛けを以て名高き愛宕山、黄金の樋一千四百万円を以て著名なる八幡山見ゆ。其西手に三島郡の高山神峰山あり（神峰山寺ハ天武天皇ノ朝役ノ行者開基）次には西国順礼二十三番の勝尾寺あり、其西は本郡箕面山なり。東に廻れは河内国飯盛山あり麓の四条畷を想はしむ。南に鬱蒼たる枚岡神社なり、生駒の聖天、信貴の多聞天、其南には金剛山あり、楠公の純忠丹心其山より尚高き想あらしむ。其他紀泉の山々由良海峡を双眸に収むることを得。人口百四十万日本第二ノ大都大阪市も眼下にあり。西を顧れは昆陽の池玲瓏として鏡の如く、一道白布を洒せるが如きは池田川なり。遠くは六甲山甲山と相対し、神咒寺の白亜明かに役の行者の忍耐力を偲はしむ。遙かに摩耶山淡路島を見るべく、茅淳海は盆の如く、行来ふ船艇は虫の浮游に髣髴たり。俯して下界の各村落を見れば丈山尺樹より尚小さく蒸々として動ける人も馬も蟻の如し。嗚呼此内には因果応報の来るも悟らす、只名利私慾の奴隷となりて貴重なる人生の目的と刻一刻老且死の将に到らざるもの多からかん。あはれやあはれ、由来山は多大の教訓を含むものなり。故に人生不如意を嘆する人はよく山に遊びて神心を壮快にし、眼界を広め、忍耐力を養ひ、高尚なる志気を鼓舞して山の徳を知るあれよ。我は常に本村に此三蓋の峰あるを大に幸福と思へり。知らす本村各位此神秘的教訓を悟り得られし方あるや否や
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史料数片
- （略）
- 昔は勿論、明治十六年の旱害の時にも雨乞ひと云ふ事を行ひたり、其順序は先つ各村より一日交代に一週間宮籠りして金鼓等を終日ならし雨を祈り、其上り日には各村挙りて其夕方柴原の南方雨か森を経て千里川堤防に出て、それより川伝ひに野畑字どんど藪の所へいたる。此処より上りて春日神社の境内へ蝟集して雨乞に祈りをなすなり。炎々として燃ゆる松火は天を焦かすかと疑はれ、鏘々たる鉦鐘の響は大地も振ふかと怪まる。余八九歳の時なりしを以て朧気に此光景を知り居れり
  歌　大雨たまひのー　百に米壱斗五升
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（略）

千里山史探検隊