だからどうした、というほどのことではないのだが、しばらく前から、石というかコンクリートというのか、要するにやたら重たいゴミ箱が気になっている。

　でもって、なぜ気になっているのかというと、あまりうまいリクツが思いつかない。そもそも、この種のゴミ箱に関しては、彼らには悪いが、あまり弁護する論理がない。収集する際の効率は極端に悪そうだから、どう考えても収集作業者に好かれるとは思えない。ならば、街の景観上、美的か、というと、もちろんソンナコトハナイ。あるいは、この種のゴミ箱の存在そのものが「一戸建」ざあます、的な嫌味を醸し出すこともあるかも知れない。てなわけで、あまり彼らを、美しく描写する手だても意欲もないわけだ。

　しかし、やはりどうも気になる。千里山の中でも残り少なくなった彼らに、たまたま遭遇すると、何かしら物言いたげな視線をこちらに向けているような気がして、つい立ち止まって眺めてしまう。それどころか、たまたまデジカメなんかを持っていると、つい写真におさめてしまう。そうこうしているうちに、何枚か写真がたまってくると、彼らのページを作らないといけないような気になってしまう。なんだか、ゴミ箱の精霊に支配されているような気になってくる。

　よくよく思い出してみると、そもそものきっかけは、いつだったか、松が丘のある家の前。それまで気にもかけなかったゴミ箱が「死んで」いるのに気付いた。ちょうど、砲撃を受けて機能を失った戦車が、不自然に傾いたような歪んだような姿勢で停止しているのを思わせるような風情で。近寄ってみると、側面と底板との間が割れて、バラバラになりかけている。一応、元の形になるように置かれてはいるが、既に「箱」としての一体性と機能を失って、魂が抜けたようなふうに見えた。その後、数日経って、同じ場所を通りかかると、そのゴミ箱の「持ち主」であったはずの家が、既に解体されて、もうほとんど更地になりかけていた。それを見た瞬間、ゴミ箱は、その家の魂の憑代なのだと思った。家が生命を失ったとき、ゴミ箱の命も尽きるのだ。嗚呼、ゆく河の水は絶えずして、しかももとの水にあらず、人とすみかとゴミ箱と、またかくの如しと、しばし無常感に浸ったものであった。

　それ以来、ゴミ箱たちが、地球の裏側のＵＦＯ基地から毒電波を発射して、私にメイレイするのだ。我々の声を聞け。我々の姿を写真にとどめよ。我々を祀るホームページを作れ。おお、生きてるゴミ箱、死んでるゴミ箱、生きてるミミズ、死んでるミミズ。あちらの街角からも、こちらの街角からも、ゴミ箱たちが立ち上がって、オーのおっちゃんの如く、私を追いつめる。ある日、ゴミ箱に首を突っ込んで死んでいる中年男がいたら、それは某商会店主かも知れない。