岡辻と佐井寺の中間に位置するこのあたりは、かつては鬱蒼とした小山であった。木々の間から当時緑色に塗装されたタンクの頭だけが見えていた。悪童どもは、このＵＦＯ秘密基地の正体を暴くべく、数次にわたる決死の探検隊を繰り出したものである。

　さてこの小山は、近世には「地蔵塚」として知られ、名所記類にもしばしば登場する。かつてここに地蔵尊が祭られていたとか、地蔵菩薩像が地中から出現したとか、徳川家康が大阪方面の戦況を遠望したとか、様々な伝承があるが、史実との関連はよくわかっていない。また、左上図のように、近世には山頂に屈曲した大きな松があり「一本松」の名でも呼ばれていた。

　近代になって、松が失われ、その後、水源地として利用されるようになったが、周辺は長い間山林のままだった。ここ数年の土地区画整理・再開発事業で、周辺が佐井寺南が丘住宅地となり、風景が一変してしまった。水道タンクも、緑色の扁平なものから、現在見る大型のものに改装され、その隣に小さな児童公園が設置されている。公園の名前には、近辺の旧字名である「西児（にちご）」が採り入れられた。

　にちごの谷は、近辺の住宅開発に伴って、大きく変貌してきた。最初は、松が丘から谷を上り詰める道路が貫いた。やがて、西児池が埋め立てられて、マンションとなった。そして近年開発された佐井寺南が丘から延びてきた道路が、今年、ついににちごの谷に到達し、松が丘からの道路は、南が丘方面に向けて大きく曲げられてしまった。谷を上り詰める従来の道路は、新しくできた三叉路から分岐する脇道のような扱いとなって、佐井寺へのメインルートの地位を失ってしまった。