54

二桁ナンバー管名鑑

		Vf	If	Type	Vp	Vg2	Vg1	Ip	Is	Rp	AF	TC	Bulb	Source
UX-54		2.5	0.1		6	-4.0	4	0.04		40000	1	25	150*38	T1933.1
UX-54	F	2.5	0.1	SC	8.0	-4.0	4.0			40000	1	25		T1933.5
UX-54	F	2.0	0.2	SC	6.0	-4.0	4.0	0.04		40000	1	25	152*38	T1940(Ueno)
UX-54A	F	2.0	0.2	SC	6.0	-4.0	4.0	0.04	min 10^-14A		1	25	T	T1962

　米国FP54(GL5740/CV2960)を手本として作られたマツダ型番。従って米国では二桁ナンバー型番の部類には属さない。微小電流測定のために特に設計された空間電荷グリッド四極管。


マツダ眞空管 UX-54 第一圖 <T1933.5>	D 2275 GENERAL ELECTRIC FP-54 MADE IN U.S.A. 19K5 3821

　微細な入力を扱うため、低電圧で動作するのはもちろんのこと、入力抵抗を高く保つ目的で、コントロールグリッド(第二グリッド)を頂上に引き出し、他の電極とは別に二重ガラス円柱で懸架するなど構造上の注意が払われている。フィラメントは極細のトリタン線。


FP-54

　元になった FP54(GL5740/CV2960)の資料はなかなか見当たらないが、マツダ UX-54 の製作意図は下記の通り。

一般に眞空管制御グリッドの絶縁不良の原因は次の如くである。(1)電子及び正イオンがグリッドに附着すること。(2)グリッド自身から熱電子又は光電子を放射すること。(3)グリッドと他電極間の直接の漏洩等である。以上の諸原因に基く制御グリッドの絶縁不良を防止するには次の如くすれば良い。
(1)はグリッドに與へる負電位を陽極電位に比して充分大ならしめ初速度に依つて電子がグリッドに到着しないやうにする。正イオンの發生を防止するには眞空度を出來るだけ良くすることは必要であるが完全なる眞空は到底得られないから使用する電壓を殘留瓦斯の電離電壓以下例へば８Ｖ以下に保つて尚動作するやうに設計することが大切である。次に正イオンは熱陰極自身より射出されるものが相當に多い。之を防ぐには制御グリッドと陰極との間に正電位を有する空間電荷グリッドを挿入して正イオンを反撥する作用をなさしめる。
(2)の防止法としては熱陰極の温度をなる可く低く且つ形状の小なるものを選び制御グリッドに對する熱及び光の影響を極小ならしめる。且つグリッドの表面より活物質を除き綺麗にする必要がある。著者は繊絛電流0.1Aのトリエーテッド・タングステン及びオキサイド繊絛に就て實驗を試み何れも本目的に使用し得ることを知つたが、實際製作には前者の方が適當である。
(3)の漏洩を防ぐためには熱及び電氣的に強質にして比抵抗普通受信用眞空管の三倍に達するTerex硝子を使用し制御グリッド端子は管の頂部に出してある。制御グリッド支持には溶融石英を用ひ排氣作業又は使用中に微粒子が沈着せざらんがために更に之を硝子管で掩つてある。

以上述べた注意を施して作つた四極管が第一圖に示す如きマツダ眞空管 UX-54 であつてその規格及び平均特性を示せば次の如くである。

繊絛電壓	2.5V
繊絛電流	0.1A
陽極電壓	8.0V(最大)
空間電荷グリッド電壓	4.0V
制御グリッド負電壓	-4.0V
相互傳導率	25×10^-6A/V
増幅率	1
内部抵抗	40,000Ω
制御グリッド繊絛間の靜電容量	1.0×10^-12Farad.

第二圖及び第三圖は本眞空管の相互特性曲線竝びにグリッド電流の測定結果を示す。グリッド電流の大きさは後に述べるやうな方法に依つて測定を行つた。圖より知らるゝ如く制御グリッドの絶縁は10¹⁵オームの程度である。

濱田成徳『低グリッド電流眞空管及びその使用囘路に就て』<T1933.5>

	← Ip/Eg, Ig/Eg 　　↓ Ig/Ef
第二圖 <T1933.5>	第三圖 <T1933.5>

　同じ論文に、この真空管を使って微小電流測定を行う回路の例がいくつか紹介されている。下図は、そのうち最も簡単なもの。キーＫを閉じて、コントロールグリッドに一定のバイアスがかかった状態で入力端子に測定対象を接続する。Ｋを開くと、測定対象の微小電流によって静電容量が充電され、コントロールグリッドに電荷が溜まるために電位が変化し、その結果プレート電流が変化する。キーを閉じてからの経過時間に対するプレート電流の変化の大きさから、測定対象の微小電流を算出する。同論文では、この回路は「極微小なる光電子電流の測定」に適しているとする。また、キーＫの位置に高抵抗Ｒを置き、測定対象微小電流がこの高抵抗を流れる際の電圧降下を検出するという方法も紹介されており「今Ｒ=5.10⁹Ωを使用する時はΔip/Δix=10⁵を得る。即ち十萬倍の電流増幅を得る」。

　後代の資料ではフィラメント定格が変わっているが、詳細はよくわからない。用途が限定されていたため、他に言及する文献もあまりない。東京工大クロニクル No.348によると、中田孝博士が歯車の「一回転中のトルク変動を世界で初めて測定することに成功した」際の「歯車動的試験ピエゾ・トルクメータ」には、UX-54 による増幅器が用いられていた。

圧電素子Qを回転するトルクメータに内蔵し, すき間には高絶縁度のパラフィンを鋳込み, 湿った空気の進入を遮断する, 回転部から固定部への静電気の取り出しには, 内輪R1をトルクメータと一体にして回転し, R2外輪はR1と共軸で空間に固定し全体としてリングコンデンサにする。これは回路を書き直せば静電圧分配器となり, もし検出用特殊真空管UX-54のグリッドの絶縁度が極めて高ければ, 高周波はもちろん静荷重までも増幅器の出力電流として測定できるはずである

この1939年製作の測定装置は、東工大百年記念館に現存し、今でも動作可能のはずだそうだ。また、ベテラン無線家(JA2RM氷室氏)の回想中に戦後間もない頃の大学の化学研究室の様子が活写されているが、ここでマツダ UX-54 は、測定用直流増幅回路のための、納期六ヶ月の特注品として登場する。入力抵抗を高く維持するために管形は「福禄寿の頭」のように伸び、ベースはステアタイト+金属シールドで作られていた由(岡田章氏によるとこれはごく初期の型とのこと)。

　橋本明洋氏の日本製真空管歴品館に、GL-5740/FP-54, UX-54, UX-54A の貴重な実物サンプルが揃って展示されている。

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