ルター作と伝え、ドイツ・プロテスタントのコラールを代表する歌の一つ。当然のことのように、バッハも繰り返しとりあげている。日本基督教団編の「賛美歌」にも101番として収録されていて、他のクリスマスソングほどは知られていないにしても、シーズンになると、街のBGMの中にさりげなく入っているのに気づくことがある。

　このコラールに対するバッハの編曲が数々ある中で、BWV738は最も単純でルーズなものと言えるだろう。特に何の技法も意識されてはいない。コラールの各節が、少しずつ間隔をあけて、ほぼそのままソプラノで弾かれ、下三声部は、やや気まぐれに伴奏と間奏を引き受ける。しかし、気むずかしさのない、素朴さが、かえってクリスマスのお祭り気分には、一番似つかわしいのかも知れない。

　そうは言っても、鋭い人は、全体を流れる下降音階と飛翔する分散和音、特に最初の間奏の冒頭に、同じコラールを用いた有名なカノン風変奏曲の第一カノン（しかもそのカノン主題自体にコラール旋律が潜んでいる）と響き合うものを感じ取るだろう。これが、バッハにとっての、キリスト降誕の「定番」の動機だということにしても間違ってないと思う。