ある年、八尾清慶寺にて、柔和忍辱の御行あそばされ、例へ何様のことありても、御弟子達に何様の粗相あるとも、御腹立はなされぬ御行なり。この御行は、なされ難きを、ただ日々にこにことして月日を御送りあそばされて、かくなん詠ませられけり。

• にんはにんにく
  不明だが「柔和忍辱」だろう。「忍辱」は、一般的な語彙ではないが、六波羅蜜の内の一つであり、仏語としては多く使われ、一般在家信者の耳にも比較的なじんだ言葉だったと思われる。親鸞「歎異抄」に、「回心もせず柔和忍辱のおもひにも住せざらんさきにいのちつきば摂取不捨の誓願はむなしくならせおはしますべきにや」「わろからんにつけてもいよいよ願力を仰ぎまゐらせば自然のことわりにて柔和忍辱のこころも出でくべし」等と、念仏者の基本的な徳目としている。また、人口に膾炙した「賽の河原和讃（地蔵和讃）」には「忍辱慈悲の御肌辺に抱き抱へて撫でさすり」と、地蔵尊の徳を表現する。「柔和忍辱の御行」なる行の詳細もよくわからないが、ここに書かれている通りの行なのだろう。