ずっと南の円山町あたりと共に、いわゆる高級住宅街。少なくとも二十年位前までは、こちらの方が、よりクラッシックなハイカラさで優っていたように思う。かつては、規格品の建築ではあり得ないような、天井の高さや妙に傾斜の急な階段や不思議な窓位置が、訪問者を非日常的な時空間に誘うような家が、たくさんあった。けれども、それらの多くは、住宅建設会社のＣＭに出てくるような家に建て替えられてしまい、残っているのはごくわずかである。

　人は、他人が単に豪勢な家に住んでいるということに対しては、普通はあまり寛容ではない。古い邸宅には、深窓の令嬢だの遂に帰らぬ青年士官だのクリスチャンの貴婦人だの狂気を帯びた男爵家当主だのといった登場人物が織りなす、大河ドラマ風の、あるいは耽美的な、時には猟奇的な、様々な物語のイメージがまとわりついていて、それらが街の共有財産として、周囲の人々に受容されているのだ。マネーゲームで建てた鉄筋豪邸では、お話の作りようがない。

　千里山神社側からは、上に掲載した家の裏側(左)と、もう一軒、表からはよく見えない家(右)が見下ろせる。写真が小さいので、実に味のある細部を紹介し切れないのが残念。