比較的簡単に作れる出力トランス(OPT)の設計方法をご紹介します。この例を多少変更することでいろいろなバリエーションが可能です。

　ＨｉＦｉ仕様のサンドイッチ巻き構造の例で記載しています。真空管ラジオの小型出力トランスの場合は、2次側を片側だけ巻けば十分実用になります。

【１】基本仕様について

基本仕様の例(表―１)

• 用途　真空管シングル用出力トランス(OPT)。
• １次インピーダンス３５００オームとして設計。
• ２次インピーダンス
  使用するスピーカーのインピーダンスを８オームとして設計。
  捲線回数を変える事により1次と２次のインピーダンスを変更可能です。
  汎用的に同時に８オームの他４オーム、１６オームのタップを作ることはトランスにとって非効率的ですので、出力トランスの性能を損じないため2次側は１つだけのタップが望ましい。
• 最大出力１５Wとして設計。
• １次直流重畳電流
  使用する真空管により変わりますが、ここでは８０ｍAとして設計。
• １次巻線数磁束密度
  コアの飽和磁束密度は18000ガウス程度、余裕を持って無信号時設計値6000ガウス以下に低く抑えます。
• 設計基準低域周波数
  低域特性を確保するため設計基準周波数は２０Hz。

　このほかいろいろなシングルOPTの設計資料です。

【２】コア仕様について

　コア仕様の例(表―２)
設計出力を確保し、鉄芯の磁束密度を低く抑えるため表―２の鉄芯断面積15.8ｃｍ２大型コアを使用。

　このほかいろいろなコアの設計資料です。

【３】捲線回数の設計について

　最大1次電圧に対する所要１次捲線数は
　　　N1(回)=E１*10⁸/((2π/√2)・A・Bo・f)
ここで E1=243V、A=15.8cm²、Bo=6000ガウス、f=20Hzから2894回。

　一方、経験的に２次捲線1mmφは１段当り50回を3段巻くとちょうど150回となり、1次と２次の捲線比20.9ですので、捲線比から求めると2次150回に対して１次は3137回となる。
　そこで最大1次電圧に対する所要１次捲線数より少し多めに１次捲線回数N1(回)=3137回とすると、磁束密度は逆算から5536ガウスとなり目標の6000ガウス以下になります
　これでシングルアンプでも20Hzの超低域で15W以上の出力が確保できます。

　このほかいろいろな捲線回数の設計資料です。

【４】捲線の設計について

　コアサイズ、捲線回数が決まったら捲線を設計します。捲線の太さは直流抵抗に影響するが、コアの窓と絶縁の制約から太い線をたくさん捲くことはできません。窓の大きさの中にどのように最適な太さの１次、２次捲線をバランスよく組合せるかがポイントです。

　1次直流抵抗は銅線0.32mmφを使用して187.2オーム、２次直流抵抗は太い銅線1.0mmφを使用して0.42オームを実現しています。出来るかぎりの太い銅線を使用していますので、電力効率は90.4%とシングルトランスとしては高い値です。

直流抵抗の影響が出ないようにするためには経験的にインピーダンスの20分の1程度以下が目標。1次側3500オーム、2次側8オームに対して、ほぼ目標どおり。特に１次と２次の直流抵抗のバランスがうまく取れており、２号のコアサイズではこれがほぼベストとではないか考えられます。捲線厚みおよび導体占積率がほぼ限界ですからこれ以上の改善は難しい状況です。これ以上を望むならばコアサイズを大きくする必要があります。

【５】出力トランスの特性

出力トランス特性の設計例

• インダクタンス
  シングル用OPTですのでコアはつき合わせ接合で組み立てます。設計直流重畳電流80mA、スペーサー厚み0.18mm、平均磁束密度8000ガウスの時実効インダクタンスは49.4(H)となります。
• 周波数特性
  低域c/off周波数は2.7Hz、高域c/off周波数は10.3KHｚとなります。漏洩インダクタンスは実測値から逆算で求めた値。サンドイッチ巻構造の特徴である低域の特性が素晴らしいトランスです。高域はもう少し伸びたほうが良さそうですが聴感上はこの程度が聴き易いと思います。

　このほかいろいろな出力トランスの設計資料です。