18世紀初頭の攝陽群談には、宝城寺の名は見えないが、社僧として本地薬師堂と大師堂とを管理していた「新坊」が、近世末期の攝津名所圖會大成に掲げる宝城寺に対応すると思われる。従って、宝暦期には、宝城寺の名で御霊社の社僧を勤めていたのだろう。御霊社の現在地は淡路町の平野町との境界の所で、これは近世史料の「亀井町」に相当する。右図は、1890年代に書かれた作者不詳の「浪華百事談」所載の御霊社の図（神仏分離直前の様子を描いたものらしい）で、西が上になっているが、宝城寺（左上方）・薬師（宝城寺下隣）・大師（薬師下方の小堂）・観音（右中央鳥居脇）の諸堂が境内にあるのが見える。ただし、攝陽奇觀にもあるように、御霊社は何度も火災に見舞われており、この図がすなわち宝暦当時の姿であるとは言えない。なお、菟布良社（円社）は、御霊社勧請以前から当地にあった神とされ、御霊社の摂社となっている。近世には御霊社の相殿に祀って祠を設けなかったので、摂津名所図会では御霊社と菟布良社を同一視している。
| 宝暦九年版 攝州大坂画圖 | 
| 西横堀 上から 京町掘 阿波座掘 上が御霊社 下は北御堂 明暦三年(1657)版 新板大坂之圖には 権五郎宮と表記 |
- 攝陽群談巻第十二(1701)
觀音堂
大坂順禮打留同郡(西成郡)津村町の地。御靈神社境内にあり。本尊十一面大悲尊は。慈覺大師の彫刻也。
藥師堂
同所境内にあり。本尊藥師佛は、弘法大師彫刻也。日光・月光の二菩薩、竝に十二神将は、佛工運慶手造の靈像たり。毎月八日十二日群を成せり。眞言僧新坊守之。大坂十二巡拝第八番也。
大師堂
同所にあり。弘法大師の影像を安置す。 - 摂津名所図会巻之四(1798)
御霊社.ごりようのやしろ
船場.せんば平野.ひらの町の西、亀井町にあり。天正年中亀井能登侯.のとこうの第.やしきこの地にありて勧請.かんじようしけるとなり。菟布良神祠.つぶらやしろといふ - 攝陽奇觀巻之四十六
文政二(1819)己卯- 一 二月九日 龜井町御靈火
社内芝居より出火神明宮小宮表門焼ル本社別條なし寶城寺藥師堂大師堂庫裡不殘北は平野町すじ南かは南は淡路町北がは東は御靈筋東側西は渡邊筋大水道まで - 一 同(五月) 龜井町御靈社内神明宮砂持 常安はし濱ト淀屋はし濱ト両所より
- 一 同月(十月)二日より八日迄 御靈寶城寺金比羅遷座
- 一 同(三月)廿二日 龜井町御靈社内宗源殿上棟
- 一 二月九日 龜井町御靈火
- 攝陽奇觀巻之四十九
文政七(1824)甲申- 一 正月三日夜 御 靈 火
子刻頃龜井町御靈社内芝居より大師堂焼失淡路町筋角まで御靈筋不殘焼ぬけ七ツ頃火鎮ル
- 一 正月三日夜 御 靈 火
- 攝陽奇觀巻之五十
文政八(1825)乙酉- 一 同月(八月) 龜井町御靈寶城寺大師堂遷佛
- 攝津名所圖會大成巻之十三上(1855-)
寶城寺.ほうじやうじ
右同所(御靈神社)ニあり眞言宗社僧.しんごんしうしやそうたり本尊藥師佛を本地佛と稱す
藥師堂.やくしだう
本尊瑠璃光佛.るりくはうぶつハ弘法.こうはふ大師の作日光.につくはう月光.くわつくはう十二神将.じんしやうハ運慶.うんけい作 毎月八日十二日詣人.けいじん羣.ぐんをなせり
御影堂.みえいだう
藥師堂.やくしだうの東傍ニあり弘法大師の影像.えいざうを安.あんす大坂大師めくり第一番の札所にして毎月廿一日諸人.しよにん羣參.ぐんさんす
妙見堂.めうげんだう
右大師堂.だいしだうの西ニ鄰る北辰尊星.ほくしんそんせいを安す
金毘羅堂.こんひらだう
藥師堂.やくしだうの北ニ鄰る
行者堂.ぎやうじやだう
役小角.えんのせうかく并ニ不動.ふどう藏王.ざわう等.とうを安す茶所の北ニ鄰る
風雅集の「第十巻」ではなく、巻第十六・雑歌中にある（本文は國歌大觀による）。
- 高野の奥の院へ参る道に玉川と云ふ河の水上に毒虫の多かりければ此の流を飲むまじき由を示し置きて後よみ侍りける弘法大師忘れても汲みやしつらむ旅人の高野のおくの玉川のみづ
- わすれても手になむすひそ旅人の高野のおくの玉川の水 是は弘法大師御歌也
- しらすしてのみもやせまし旅人の高野の奥の足引の水
此歌は弘法大師高野山にひとつの谷を點して。もろもろの毒虫のたくひを咒しこめ給り。この谷の水を服する人かならす害あるゆゑに。大師よませ給る御歌となん。
一般に「六玉川(むたまがは)」と総称される。
- 井手の玉川：京都府南部井手町
- 三島の玉川：大阪府高槻市
- 野路の玉川：滋賀県草津市老上
- 高野の玉川：和歌山県高野山奥院
- 調布の玉川：東京都を流れる多摩川
- 野田の玉川：宮城県塩竈市