人として、諸事のことにつけ、ただ上へ上へとのみ登りたきを専一として、登りて見れば、いづれも下りあるは、世界理前、山も峠まで登りて見れば下りある故に、いつも麓にいる心地になりて、我身を慎み、菩提心を求めよ、との御示しなり。

• たかきやにのぼりてみれば
  有名な仁徳天皇伝承歌

  新古今707 みつきものゆるされて、くにとめるを御らんして 仁徳天皇御哥 高きやにのほりてみれは煙たつ民のかまとはにきはひにけり

  からとられた上句だが、下句の「ふもと」や、評釈の文意に照らせば、「高き山」のつもりで引いたのかという疑問が湧いてくる。さて、仁徳天皇は、現代では大阪湾に向かう巨大古墳と共にイメージされることが多い。近世の大坂人にとっては、むしろ、大阪に都を置き、人民が貧乏だと税金をまけてくれ、浮気がばれて皇后に叱られ、宮殿が雨漏りしても我慢して暮らしている、といった、親近感の湧く「よい王様」の代表だったようだ。賑わった高津宮をはじめとして、いくつかの「仁徳天皇社」が古地図に見え、信仰対象としても人気のあったことが窺える。国学者や地元考証家達は、しきりに高津宮の故地について、あるいは「高きやに」の歌の作者について議論し、またそれらが名所図会などにも紹介されるほどだった。そうした中で、明意上人や評釈者が、この歌の上句で「屋」と「山」を混同するような扱いをしている理由が、今ひとつよくわからない。
• せかい利まひ
  「世間の常識」「当然の理屈」という程の意味。