現当二世の利益を蒙りし者、その数、挙げて数え難し。これ、人々のよく知るところなり。然るに、上人の諸詠歌あり。その趣意は、ただ衆生化益のためのみに詠まれしを、そのままに差し置かば、後年に至りて廃せんことを厭ひ、このたび改め、当年までの御詠歌の心を、幼童にもわかり易く書きあらわし、一巻につづめ、二十四番の御詠歌として額面に記し、有縁の地蔵堂へ捧げなば、拝する人の菩提を求むる一助にもなりなんことを思ふのみ。

• 現当二世の利益
  現世利益と極楽往生。浄土系の信仰と言えば、我々はすぐ「純粋な」欣求浄土のみを思い浮かべるが、大衆信仰である以上、現世利益の重要さを無視してはいけない。師の楽山上人も、障害や病気を念仏の力で治療したという霊験譚で知られるが、明意上人もまた、本書の随所に見られるように「其一生に於ける奇跡的行爲は往々古老の傳稱する所」（中河内郡誌）といった信仰を集めていた。
• 廿四ばん
  24という数字に、特別な意味があるのかどうかは未考。一般に阿弥陀信仰に関わりの深い数字は、六字名号・九品往生・来迎二十五菩薩・四十八大願等。
• 額面
  本書の出版意図が示されていて興味深い。「有縁の地蔵堂」が特定の地蔵堂を予定したのでなく、講中・信徒が思い思いに近所の地蔵堂に奉納することを意図していたのだとすれば、どこかにその現存物があるか、探してみるのも面白いだろう。現在の清慶寺の塀外の一角に小さな地蔵堂があるが、御詠歌の額はかけられていない。大阪近辺の村々の多くがそうであったように、八尾もまた地蔵信仰の盛んだった所であり、とりわけ師の楽山上人は、「生き地蔵様」とも呼ばれた程だから、地元密着の信仰スポットとして村々・辻々の地蔵堂を挙げるのは、いとも自然なことだ。